種から育てた無農薬のトマトのリゾット|小さな畑から一皿へ

土にまかせた、小さな決心。
種は、ちゃんと覚えていて、
わたしのリズムで実った。

赤くなったトマトは
料理より先に、
わたしを育ててくれた気がする。

「種の記憶」

 

昨年は苗からミニトマトを育てました。
けれど、夏になっても実はつかず、ようやくできた実も水っぽくて、味はほとんどなく。

理由ははっきりしませんが、なにより「植物を知っていなかった」のだと思います。
だから、今年は決めました。
種から育ててみよう。
一から植物と向き合ってみようと。

 

種をまいたのは2月。
外の気温は3度前後。発芽には、ほど遠い寒さでした。

ポットに2~3粒の種をまき、
発泡スチロールの箱に入れて、湯たんぽで静かに保温。

毎日温度計とにらめっこ。
小さな命にちょうどいいぬくもりを探して。

1週間ほど経った頃。
小さな芽が土の上に顔を出した時、
ただ、それだけで胸がいっぱいになりました。

真冬の保温の様子。

小さな芽がひょろひょろと徒長しないように、
太陽の光と風の通り道を探しながら育てました。

外はまだ冷たくても、
発泡スチロールの箱の中は、油断すると40℃を超えてしまう日もありました。

小さな命にはとても大きく響き、
しおれた苗を日陰で休ませて水を少しずつ与えました。

息を吹き返したその姿に、ただ、静かに「ごめんね」と謝りました。

育てているつもりだったのに、気づけばこちらのほうが学ばされていた気がします。

命を育てるということは、
守るだけでなく、選ぶこともあるのだと、
このあと、私は知ることになります。

 

種をまいて、ひと月ほど経った頃、
私は「間引き」と向き合うことになりました。

ひとつのポットで育てられるのは、1本。
3つ芽が出ていれば、2本は抜かなければなりません。

どの芽も、同じように見守ってきたのに、
私の手で選ばなくてはいけない。

難しい作業でした。
「ごめんね」とつぶやきながら、最も元気な苗をひとつだけ残しました。

夜の冷え込みが緩んだ頃、そっと屋外へ。
不織布を2重にかけて、温かく包みました。

4月に入る頃、小さな菜園のレイズドベッドへ鉢上げ。
やはり、土の深さがある場所は、根がのびのびと育ちました。

鉢上げの様子。

根がしっかりと張った頃、
苗たちは静かに花のつぼみをつけはじめました。
その姿に、春がようやく来たのだと感じました。

5月。
花が咲き、やがて小さな実が膨らみはじめました。
あちらこちらで生まれる実に、私の期待も膨らみます。

6月。
実は日に日に重みを増し、ゆっくりと赤く染まっていきました。
収穫のタイミングを見計らいながら、
焦る気持ちを、ぐっとおさえました。

初めての収穫は6月11日。
少し粘ったためか、実には小さなひび。

それでも手に取ると少し震えました。

初めて口に入れた感覚は、今でも忘れられません。
「甘い!」と言える派手さはなかったけれど、
一呼吸を置いて自然に出たのは、「美味しい」という静かな言葉でした。

この味は、自分の手で育てたという事実だけでなく、
そこに流れていた時間まで含めて、ひと口に込められている気がします。

初めての収穫の様子。

この小さな菜園で育つのは、無農薬・有機の野菜たち。
それは、自然の営みの中で、それぞれのペースで育った、
どれも個性ある味わいを持っています。

私が見てきた風景と時間、
そしてこの菜園からの恵みを、
一皿の料理として、静かにお届けできればと思います。

今年は中玉トマト1種、ミニトマト2種を育てました。

7月ディナーの一皿。自家栽培3種のトマトリゾット。

7月のディナー詳細はこちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました